紙の本を読みなよ 電子書籍は味気無い
— アニメ PSYCHO-PASS より
昨年の今頃からKindle Paperwhiteを使って電子書籍ばかりで本を読むようになった。当時は新しく本を買う時は、Kindleなど電子書籍で買えるならばKindleを優先しようと思っていた。
いまもKindleで本を買うが、傾向が少し変わってきている。紙の本をあえて選択することも増えた。
紙の本のほうが読みやすい?
なんだかんだで紙の本のほうが読みやすい気がしている。特に日本語は紙の方が読みやすい。
これは「慣れ」の問題と「パブリッシャーの最適化」の問題だと思っている。
読み慣れている紙の本
僕は小学生のときから教科書、図書館で借りるマンガや小説などすべて紙の本で読んでいた。大学生になっても、お金がなかったのもあって数学書などの専門書も原則全て紙の本で読んでいた。子どもの頃は実家が新聞をとっていたのでそれもたまに読んでいた。
数えたことなんてないので具体的な数はさっぱり検討もつかないが、数百冊、下手すると数千冊は紙の本で読んだ経験があるだろう。
僕は英語の本で、紙で読んだことがあるものは高校までの英語の教材と数学書しかない。そもそも英語では紙の本に慣れていないし、ディスプレイになったとしてもそんなに違和感がないのだ。そのせいか、英語の電子書籍やWebメディア、新聞記事をスマートフォンとかPCで読むのが苦ではない。英語を読むのは苦だが。
パブリッシャーの最適化
日本語の組版技術は凄まじい。凄すぎて言語化できないが、とにかく日本語の書籍の品質は高い。
電子書籍の事業は日本で始まってせいぜい30年程度らしい1。「電子書籍元年」と騒がれたのは2010年で、まだ10年余りの時間しか経っていない。
一方で、新聞社は明治時代に創業されていまも続いているし、例えば岩波書店は大正時代に創業している2。組版技術を詳しくは知らないが、100年という単位での歴史の積み重ねでいまの日本の書籍は読みやすくなり続けているのだろう。
同人活動などで自分で本を執筆してみたことがある人はわかると思うが、「読みやすいように紙に文字を印字する」だけのことがものすごく難しい。なんか読みにくい、でもどう直せばいいのかよくわからない……と何度思ったことか。
商業出版されている本はその点、プロの編集者のこだわりや熱意を感じる。行間であったり、文字と文字の間の間隔であったり、図表を挿入したときの文章の配置だったり、素人では気遣えない工夫が散りばめられている。何気なく書店にいけば山積みになっている書籍も、技術の粋を結集して1冊の本になっているのだ。
それと電子書籍を比較してしまうと、やはり目劣りしてしまう。Kindleで読んでいて「なんでこんな変なタイミングでグラフが表示されるんだ」と思ったことは何度もあるし、使う端末の画面サイズや文字のサイズ変更によって体験が完全に変わってしまう。まだパブリッシャー側がユーザー体験をコントロールできていないように感じる。
その点、例えば縦型スクロール漫画には電子出版の希望を感じる。活字の書籍でもスマートフォンへの最適化ができれば、さらに読みやすくなるのではないかという気がする。
ところで、私見だが英語の紙の本はそこまで組版技術が高いように思えない3。それで結局、Web記事と紙の本で読みやすさが変わらないのではという気がしている。
いかに使い分けるか
当たり前だが紙の本にもいいところはあるし、電子書籍にもいいところはある。ということで使い分けを模索しているところだ。
いまは、読みながら書いてあることをじっくり検討しないといけないような本では紙の本を買うべきなのではないかという仮説を立てて検討している。
どうしても「なんか知らんが読みやすい」という点では紙の本に軍配が上がってしまう。であれば読む以外に考える比重を割きたい本は紙の本のほうがいい気がしている。これは例えば古典(岩波文庫のようなやつ)や哲学書などを想定している。
逆にビジネス書だったり、解説書であったりエッセイであったりと深く考えずともなんとなくわかるように書いてある本は電子書籍で良さそうである。
あまりこういうことに悩みたくなくて、1年前に電子書籍に全面移行しようとしたのだが、結局失敗した。なんとなくこうなる気はしていたので意外でも残念でもない。
とはいえ、本棚は有限なので電子書籍という選択を適切にしていきたいとは思う。その意味で、この1年ほど電子書籍でなるべく本を読むようにしてきたのは良い取り組みだったと思う。まだまだ改善の余地はありそうだ。
最近読んだ本
ということで、今日は紙の本で読んだ2冊を取り上げる。
なぜ理系に女性が少ないのか
なぜ理系に女性が少ないのか 横山広美
大学・大学院など高等教育機関における理系分野の女性学生の割合は、OECD諸国で日本が最下位。女子生徒の理科・数学の成績は世界でもトップクラスなのに、なぜ理系を選択しないのか。そこには本人の意志以外の、何かほかの要因が働いているのではないか――緻密なデータ分析から明らかになったのは、「男女平等意識」の低さや「女性は知的でないほうがいい」という社会風土が「見えない壁」となって、女性の理系選択を阻んでいるという現実だった。日本の男女格差の一側面を浮彫りにして一石を投じる、注目の研究報告。
この本は、日本の女性が理系に少ないのかをデータに基づいて分析した本である。
研究内容自体は(元々の論文をあたったわけではないが)難しいことはしておらず、著者が途中で述べているようにむしろこのような研究がなされてこなかったこと自体を意外に感じる。
興味深い点はいくつもあるが、何よりデータに基づいて考察をしている点がよい。ジェンダーに関する話はいくらでももっともらしい嘘が言える4。まして「社会風土」なる曖昧模糊としたものが原因だと言うのは誰でも簡単に言える。
個人的に印象に残ったのは「ジェンダー平等意識が低い人は男女問わず理系進学率が低い」というデータである。著者の見解では、これはジェンダー平等意識をもし教育などで改革できれば理系進学率を高めることができる可能性を示唆している。
また、ジェンダー平等意識は平均すれば男性の方が低いというデータもあった。むべなるかなといった感想である。
ぱらぱらと流し読みしただけだが、自然科学そのものの研究のみならず、人間と自然科学との関係といった検証を行う研究はとても素晴らしいものであると思った。
これは対岸の火事ではない。テクノロジー業界に女性が少ないことと強い関係がある気がしている。こうした研究がさらに発展することを願っている。
日本人のための第一次世界大戦史
日本人のための第一次世界大戦史 板谷敏彦
日本人はこの戦争の重要性を知らなさすぎる――。欧米では”The Great War” と称される第一次世界大戦。その実態を紐解くと、覇権国と新興国の鍔迫り合い、急速な技術革新とグローバリゼーションの進展など、WW1開戦前夜と現代との共通点が驚くほどに見えてくる。旧来の研究の枠を超え、政治・経済・軍事・金融・メディア・テクノロジーなど幅広い観点から、戦争の背景・内実・影響を読み解く、日本人のための入門書。
第一次世界大戦の概観がわかる入門書。日本ではあまりよく知られていないこの戦争を技術革新、軍事技術、当時の外交体制、戦中の悲惨さまで概要が書かれている。
この戦争と日本との関係も深く記されており、日本の参戦経緯に加えて対華二十一ヶ条要求やシベリア出兵なども書かれている。こうした事実を見るに、日本でもすでに日中戦争や太平洋戦争の布石が第一次世界大戦を契機に打たれていることに気付かされる。
塹壕戦と消耗戦を見ると素朴に「こんなにも人が死ななくて良かったのに」と思う。と同時に、外交問題によってこんなにも人が死ぬ可能性があるのだとも思う。
ウクライナ侵攻から1年である。そしてたまたまここ数日、中国とアメリカで緊張した状況が続いている。東と西の対立は、実は形を変えてまだ続いているのか?そんなことを妄想するこの頃。
おわりに
トルコ・シリアで大地震が発生しました。ビルがそのまま崩れ落ちていく映像を見て衝撃を受けました。

言葉もありません。
何もできませんが、僕は被災地で活動する団体に寄付をしました。もし支援できる人でこの文章をなんの気なしに読んだ人がいれば、ぜひ国連や国境なき医師団など、被災地で活動されている団体への寄付を検討ください。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/59/9/59_587/_html/-char/ja
出版社や本の印刷技術という意味では、もっと歴史が古い可能性が高い。調べきれていない。
おそらく日本語の本を比較対象にするのが間違っている。
著者の推測が一切書かれていないわけではないが、その場合明確に推測であるとわかるように書かれている。